夏山特集 3
ヨーロッパアルプスの夏休み (No.3 スイス ツェルマット編)
8月に入ると、ツェルマットはもう秋を感じさせる。
周りの山々は、白いドレスの丈が日増しに長くなって来た。
ツェルマットの町は電気自動車以外は通行出来ないので静かだ。
時おり馬車がのんびりと通り過ぎて行く。
心に焼き付く素晴らしい町である。
天候も余り芳しくなく、気の乗らない数日間が過ぎた。
9月1日のウイーンでの再会を約束し、友がツェルマットを去って行った。
私は、氷河見物、高原散策等で時間を潰す毎日だ。
マーターホルン登頂 4477m
「8月11日」 天候も安定し、シワルッデーよりハイキングコースをのんびりと歩き、夕方の早いうちにヘルンリの山小屋へ着いた。 小屋の設備、環境ともバツグン。
「8月12日」 快適の夜だったが、2時頃より辺りが騒がしい。 ガイド連れの登山者がもう出発の準備をしている。 3時にはいなくなった。 もう一眠り。 5時少し前、あたりが白み出した。 小屋を出ようとすると、番人に呼び止められた。 「登るには時間が遅すぎる、やめろ。」と、しきりに言う(言葉は余り通じないが)。 私は困り果てて「アイアム、ジャパニーズ、ガイド」と言うと、番人は「OK 、OK」と言い残し奥に消えた。 標高差1200m。 気楽なものだ。 鼻歌交じりに、グイグイと快適な岩場を高度を稼ぐ。
チョツト悪い岩場を150m登ると、ソルベィの小さな避難小屋が岩場に張り付いている。 標高4000m。 高度の影響か少々息が弾む。 少し稜線を登り、雪と氷の北壁を右にトラバース。 アイゼンを付けたくなるが、ピッケルのピックを叩き込み、一歩一歩慎重に登る。
眼の前にはさえぎる物が何も無くなった。 4477m、山頂だ。 時計を見ると8時10分。 話に聞いていた十字架が、雪のナイフリッジの向こう、イタリア側山頂に立っている。 両側が1000m以上切れ落ちたリッジを70m進み、イタリア側山頂に立つ。 十字架は、雷に打たれたのか黒く汚れている。
スイス側の頂きに戻り、頂上の岩をピッケルで削ってザックに入れる。 日本を出る前から私の為に、協力、援助してくれた山仲間達への、ささやかな土産に。
行きは良い良い、帰りは怖い。 アイゼンを着け、ピッケルを叩き込みながら、北壁を横切る。 ソルベィの避難小屋より、2回ザイルで懸垂下降。 岩場を下れる所を右に左にとルートを探し、ひたすら下る。 13時、ヘルンリ小屋に降り立つ。 振り返ると、マッターホルンの上部は雲の中。 又雪が降って来た。 たった一人で登ったマッターホルン。 厳しさ、険しさ、苦しさも感じなかったが、今までの自分には無い、山登りの楽しさを味わった様な気がした。
アルプスの夏休みも、もうじき終わりだ。
「8月16日」 ツエルマットを後に、グリンデルワルドでアイガーの北壁を見学して、「8月24日」オーストリア、チロル地方に寄り、散策したり、小さな山を登ったりしながら帰国の日を待つ。 「9月3日」ウイーンよりモスクワ経由でナホトカへ。 そこから船で、万博で賑やかな大阪港に「9月7日」に着く。
109日間の、夏休みも終わってしまった。 残った物は、「もう少し頑張れたのではないか?」の自問と、姉から遠征費用として借りた35万円、そして生きる為に戦った自分自身。 何かを求めて、また山に… 27歳の夏休み。
初心者のための山登り教室
- 急な岩場の登り方
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- 靴底の角度をできるだけ水平に保つ。
- 身体はできるだけ垂直に保つ。
- ベト、ガレ場など足場の悪いところの登り方
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- 摩擦を多くとれるよう、靴底の面をできるだけ広く使う。
- 足場を失う危険性大。 細心の注意を。
- 急な岩場の下り方
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- 登山で一番の危険が伴なう。
- 身体を岩場に向けて垂直に立つ。
- 下の足場を確認。
- 必ず三点支持を守る。
- ベト、ガレ場など足場の悪いところの下り方
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- 足首、膝を前に。
- かかとだけで下りないように。