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ヨーデルニュース 第3号

夏山特集 2


ヨーロッパアルプスの夏休み (No.2 シャモニー編) 1970年

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「6月11日」ドロミテを後に、ミラノ、ジュネーブ経由でシャモニーに入る。

素晴らしい景観だ。 天を突く針峰群、そして氷河。 そこは岩と氷の別天地だ。 シャモニーに来てから天候が安定せず、イライラの募る日々が続く。 日帰りの出来る山を探し、「6月21日」エギュードミディの南壁、「7月3日」エギュー・ド・ペイユのパピヨン岩稜等を登り、天候の安定をひたすら待つ。 やっと訪れた晴天。 天を刺すような岩峰。 モンブラン山群で登るのに最も難しい山、ドリュ。

"エギュー.ド.ドリュ"の大岩壁に挑む (南西岩稜の登攀) 墜落そしてカミナリ

昨日、モンタンベールよりメールドグラス氷河を横切り、ドリュの基部に夕方登って来た。

「7月6日」、標高差1100m、4時30分、戦いの火ぶたは氷壁から始まった。 40〜50度の傾斜のクロアールを、12本爪アイゼンの前2本と、左手にアイスバイル、右手にアイスメスのコンビネーションで、250mをノーザイルで一気に駆け上がる。 友とザイルを結び、60〜80度ある氷壁に挑む。 友のアイゼンは、余りに硬い氷に悲鳴を上げ、前2本の爪が曲がってしまい、ザイルのトップは不可能になってしまう。 つるべ式登攀で時間短縮を計っていたのだが…。 辛い、ふくらはぎがケイレンして来る。 アイスメスで氷に穴を掘り、片手でぶら下がり、何度か足を休め、350mを攀じ登った。 11時、恐怖のクロアールの脱出に成功。 頭上には明るい花崗岩の岩壁が天を突いて聳え立っている。 これより頂上までの標高差800m。 垂直の岩壁を右に左にとルートを選んで、ザイルで4ピッチ、150m程登ると、オーバーハングに行く手を遮られる。 ハーケンを打ち、カラビナにザイルを通し、強引に乗越しにかかる。 ガシャーン!!。 私の体が空中に投げ出された。 墜落! 頭が下になり落ちていく。 苦労して登って来たクロアールの氷壁が目に飛び込む。 脳は意外と冷静だ。 「ザックが肩から外れ落ちなければ」との心配。 長い時間が過ぎ?、ガッーン!!。 腰と肩にショックが来た。 落下距離10m、宇宙遊泳は3〜4秒で終わった。 空中に逆吊で漂っている自分に、安堵より腹立ちの方が先にたち、益々戦意が増して来る。 怪我のほうは大した事無く、腕の打撲と手の甲の擦過傷。 神が味方したのか? 悪運が強いのか?。 急がなければ。 ピッチ登っただろうか。 疾うに太陽は西の山に沈み、あたりが簿暗くなり、ビバークの用意。 幸い足が伸ばせる岩棚を見つけ、快適な夜を迎えた。 満天の星の下にシャモニーの灯…。

「7月7日」どこまで続く、垂壁とオーバーハング。 尺取虫の様に、朝から200m程登っただろうか。 友がトップの番だ。 垂壁からオーバーハング。 じわじわと25m程ザイルが伸びて動かなくなった。 暫しの静寂を破る悲鳴。 空に黒い物体が浮き上がる。 墜落! 私は、ザイルを握る手に力が入る。 ショックが来た。 見上げると、頭上10mに空中ブランコの如く、左右に気持ち良さそうに揺れていた。 「大丈夫?」と声をかける。 心なしか元気の無い声で、「大丈夫。」と返事あり、心撫でおろす。 「あと少し、あと少し」と自分に言い聞かせ頑張って登るが、非情にも又、夜になってしまう。 最悪の夜だ。 身体を岩壁に固定し、立ったも同然の格好で、食事もとれない。 夜半よりあられと強風。 とうとう恐れていたドリュの嵐だ。

「7月8日」 明けない夜は無いと言うが、長く厳しい夜も白んできた。 食事が取れないので出発が早い。 80m攀じると広いテラスに着く。 南西岩稜の終了である。 昨夜と今朝の食事を済ませ、頂上をめざす。 さらに垂直の岩壁を150m位登った所で、又嵐が襲って来た。 叩きつける風と大粒のアラレ。 カミナリでヘルメットの中の髪の毛が引っ張られる。 周りの岩稜からは火花が走る。 地獄図の中で死を覚悟しながら、恐怖で身動きすら出来ずに耐えた1時間。 気がつくと、今まで何事も無かったかの様に青空が広がっていた。 生き返った私達は、早々に頂きを目指した。 14時、頂上。 何の感激も無く、頂きを後に、長い懸垂下降に移る。 疲れ切った身体には下降も辛い高度差400m下降、又夜が来た。 食べ物が何も無いので楽なものだ、ツェルトを被り、横になるだけだ。

「7月9日」 早朝から下降。 岩場も終わり、アルゼンチエール氷河よりメールドグラス氷河を横切り、シャモニーに午後早く帰り着いた。

辛く、苦しく、死も覚悟した登攀であった。 何のために登るのだ???。 夕方、西日で紅に染まったドリュ。 何も無かったかの様に聳え立っている。

疲れた体を休めながら、ハイキングや散策などで、2週間があっと言う間に過ぎた。 「7月24日」アレート・ド・チャペル。 「7月26日」エギュー・ド・レムの北北東カンテ。 「7月28日」ツール・ロンドの北壁。 「7月29日」ミディのコスミック、バットレスなどの登攀に成功し、50日余り滞在したシャモニーを後に、8月1日マッターホルンにむかう。


花の山旅

コマクサの群落 針ノ木岳、蓮華岳
  • 1泊2日、歩行12時間30分

    信濃大町〜扇沢 −(1:30)− 大沢小屋 −(1:30)− ノド −(2:00)− 針ノ木峠 −(1:00)− 蓮華岳 −(0:40)− 針ノ木小屋(泊)
    針ノ木小屋 −(1:30)− 針ノ木岳頂 −(6:00)− 扇沢

  • 蓮華岳のコマクサは7月中旬〜8月初旬が見頃。 鹿島槍ヶ岳に続く稜線の景観よし。
  • 針ノ木雪渓の下り、上部はかなり傾斜あり。 雪渓の少い時は足場が悪い。 注意。
ヒメサユル咲く 栗が岳
  • 日帰り、歩行6時間

    加茂水源地 −(1:00)− 見晴台 −(1:40)− 避難小屋 −(0:50)− 栗が岳 −(2:30)− 加茂水源地

  • ヒメサユリは年にもよるが、5月中旬〜6月初旬が見頃。
  • 山ヒルに注意、ガレ場あり下り時注意。

お知らせ

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